1997年7月12日(土) Kars 晴れ
午前中はKARS城と博物館に行く。スロベニアのデニスとティナと一緒に行動する。KARS城は街の北側に聳え立っている。川沿いには古い建物が残る。城の上にのぼり街を見渡す。
古いアルメニアスタイルのモスクがひときわ目を引く大きな建物で、屋根が苔むしていた。
街はトタン屋根が目立つのが特徴だ。その向こうには広大な草原が広がる。素晴らしい眺めだ。高地特有の澄み切った冷たい風が心地良い。何時間でもボーっと過ごしていたいほど風が気持ちよい。
この城はモンゴルの侵入で破壊されたそうだが、その後、オスマントルコ時代に再建されているそうだ。城の上でデニスとティナに日本語を教えたり、スロベニア語を教わったりした。
博物館に向かう。かなり歩くことになったが、歩くことで街の表情がよく分かった。子供たちの好奇心の強さはどこに行っても変わらない。街のいたるところで牛馬の糞をブロック状にして干していた。これを冬は燃料として使うのだそうだ。のどかな風景が続いた。博物館自体は大して見るべきものはなかった。
食事をとり、13時のガイドとの待ち合わせのためホテルに帰る。13:10頃ホテルを出発。14時頃にアニの遺跡に到着する。アルメニアとの国境だ。
アニの遺跡は小さなものだと思っていたが、かなりの巨大さにびっくりする。まず、城壁が見るものを威圧するように聳え立つ。修復作業をしていて、あちらこちらで工事を行っている。正面の塔の高さは、仰ぎみるほどのものだ。
城壁をくぐると、目の前にいくつかの建物が現れる。かなり広範囲にわたって建物が散在している。
このアルメニア人がつくった街は、昔、相当大きな城塞都市としてシルクロード上に横たわっていたのだろう。半分崩れかけた教会もあれば、良い状態で残っている教会もある。中の壁画の色はかなり落ちているが、人物の顔など驚くほどよく保存されていたりする。

また、赤茶けた色の石材を前面に使っているため、この廃墟自体が独特な雰囲気だ。大聖堂やアナトリアで初めてのモスク等を通り過ぎて城跡にのぼる。川を挟んで岩が絶壁になっていて、トルコとアルメニアの国境となっている。破壊された橋が残っている。シルクロードが街をとおりぬけて、対岸のアルメニア、そしてその彼方へと道は続く。この遺跡まで来ると、遥か中国まで続くシルクロードを実感として感じることができる。

だだっ広い城壁都市の廃墟の中に、ところどころに散在する教会を見ていると、その昔の繁栄と没落を思う。地政学的に他民族から侵略され続け、モンゴル軍と地震により終止符を打ったのだそうだ。13世紀のことだ。
この遺跡は本当に遺跡らしい遺跡だった。ほとんど人もいなくて、静まり返った巨大な廃墟は、人に何かを思わせる。諸行無常。もっと長い時間、この遺跡に居たかったが、この遺跡はとても心に残る遺跡だった。来てよかった。
17時頃カルスへ戻る。夜、デニスとティナと食事に行く。いろいろとスロベニアの話を聞くことができた。スロベニアは昔のユーゴスラビアの一員だが、昔からテレビ等も別にスロベニア語で放送していて、独立国家的な立場だったようだ。このスロベニアがユーゴスラビアでは最も経済的に豊かだったため、社会主義国家の中にあって、その富は首都にどんどん吸い取られていたのだそうだ。今は独立してよかったと言っていた。ただ、独立後は貧富の差が激しくなり、若者の失業問題を筆頭に、問題が山積しているそうだ。彼らも大学を卒業したら、オーストリアに行って仕事をしたいと言っていた。また、何になるにもその分野の専門学校があって、その学校を出ないと自営業すらできないという。スロベニアは端から端まで車で3時間という小さな国で、戦前の領土はイタリアに取られてしまっているが、イタリアとは良い関係にあるそうだ。この2人との会話と、レストランの人もとても感じがよく、とても良い夕食となった。
本日の支出 約16.8USD
コメント