アジア旅行記 1997年6月5日 スーフィズム イスタンブール

エッセイ

1997年6月5日(木) 晴れ

昨日は夕方に寝て、一度真夜中に目を覚ましたりしたが、ほとんど朝まで寝通しだった。疲れていたようだ。妻の熱も下がる。

朝食をとり洗濯。その後、考古学博物館に行く。

アレキサンダー大王の棺とされている大きな棺がメインの展示物だった。ライオン狩りをしているアレキサンダー大王、ライオンの皮をかぶって戦うアレキサンダー大王等が彫刻されていた。他にはトロイの木馬の模型等がおかれていた。

考古学博物館の後は地下宮殿に行く。この地下宮殿もまた見ごたえがあった。地下に降りていくと、そこにはコリント様式の柱頭がある柱がずらりと並び、下には池のように水が張ってある。魚が泳いでいた。

光と音で幻想的な雰囲気を出してある。

ローマ時代の4世紀から、6世紀にかけて建てられたこの地下宮殿の一番奥にはメデュウサの顔が柱の台となっている。魔力を封じこめるためなのか? とにかく壮大なこの地下宮殿はとても涼しくて、暑い真夏にはとても過ごしやすい場所だったことだろう。

それからinformationに行って、イラン大使館へと向かう。8時から12時までしか開いておらず、今日は閉まっていた。面白いことにこの大使館は土日は開いているのに、金曜日は休みだそうだ。イスラムの国なのだなと改めて思う。

それからバーベキューチキンの昼食をとり、グランバザールへ行った。相変わらず人がたくさんいた。

その後、ベヤズットジャーミィ(モスク)やイスタンブール大学を眺めながら、シュレーマニエジャーミィ(モスク)まで歩いた。モスクはどこに行っても、モスクそれぞれの特長があり興味深い。そしてどれもとても美しい。このシュレイマニエジャーミィはトルコ最高といわれる建築家、ミマル・スィナンの設計。オスマントルコ最盛期のシュレイマン大帝による。16世紀の建立。

一度ホテルに戻った後、今日もまたDoy Doyで食事をする。シシカバブ、レンティルスープ、アイラン等をとる。その足でスーフィーが見られる場所へと向かう。スーフィズムとはイスラム教の神秘主義哲学で、白い服を着た男たちがひたすらくるくると回り続ける回旋舞踊で有名だ。

電車とメトロを乗り継ぎ、そして歩く。観光化された場所では全くない。現地の人たちのスーフィズム集会場なのでどこにあるのか目印もなく迷っていたら、集会に参加する若夫婦に声をかけられて、事情を言うと、集会場まで連れていってくれた。

集会はお祈りから始まった。祈り自体はイスラム教の通常の礼拝と変わらないように思う。祈りが終わると、今度はもっと狭い部屋の方へ集まり、正座して合唱が始まる。この合唱はどちらかというと、インドネシアのケチャックダンスのような感じで、集会場に来た人たちすべてが呼吸を吐いたり、吸ったりするような音を繰り返す。音やリズムも一定に、全員の呼吸音が鼓動となり、ちょうど心臓音のような感じの響きが会場をうねる。全員の呼吸音が重なり、うねるので、何か大きな生き物の体の中に取り込まれ、その巨大な心音を聞いているような錯覚を覚えてしまう。

そのリズムの中に、独唱する高い声が重ねられる。個人というものが消え、集団がひとつの調和となり、生き物のようにリズムを奏でる。皆、体を横に振っている。そこに恍惚状態が生まれ、トランス状態に近づいていく。凄い時だ。凄い瞬間に居合わせている実感を得る。

この単調な音のうねりに、どんどん吸い込まれていく。

女性と男性は別々に居る。女性達も2階で呼吸を合わせ、その鼓動に合わせて体を左右に揺らしているのがうっすらと見える。男女の呼吸がひとつになる。

異教徒の私たちもこの場に快く迎えられ、間近でこの光景を目の当たりにすることができた。感動を覚える。

スーフィズム教団が唱えるように、神と個人は直接に交流できるとする真髄が、このトランス状態の中で起こってくるのだろう。となるとアニミズムに近いのかもしれないが、誰かが言った「祈りは波動となり天に届くだろう」という言葉がそのまま当てはまるような美しくも単調な素晴らしい音のハーモニーだった。

それが終わると場を移して、師の説教となる。言葉がわからず残念だった。

途中で抜け、バスと徒歩でホテルまで戻る。このスーフィズムの集会については、街で出会ったニュージャージーでアラビア語を勉強しているというアメリカ女性が教えてくれたのだが、心より感謝したいと思った。

本日の支出 約20.9USD

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