昔インドを貧乏旅行していた頃、この小さな町に立ち寄ったことがある。ガンジス川をはさんでヨガのアーシュラム(修道場)が立ち並ぶこの小さな聖地は、ビートルズのメンバーがヨガ修行を行った聖地として有名だ。
ちょっと見るだけのつもりで立ち寄った町で、長居する気などさらさらなかったのだけど、たまたま泊まったゲストハウスがヨガニケタンというアーシュラムのゲストハウスで、宿泊者にはヨガ券なるものがついてきた。せっかくだからということで、朝夕のヨガに参加してみたことが縁で、この地で、一ヶ月半ほどヨガ三昧の日々を送ることになった。
最初はこんな田舎の完全ヴェジタリアンの町になどに長居などできないと思ったのだが、次第に、この町のゆっくりとしたリズムがとても好きになった。
ヨガの実践は、日が出る頃に道場に行って瞑想を行い、そしてハタヨガを教えてもらう。欧米系を中心に何人もの外国人が来ていた。ヨガは、体をほぐすことで、心をほぐす働きがある。日常生活を営む上で、常に緊張やストレスを感じながら生きている。怖いと思ったり、いやだと思ったりする感情は必ず体を硬くする。その硬くなった体を、様々なポーズをとりながら、体全体に意識をはりめぐらせながら体をほぐしていくことで、心が解放されていく。体も心も次第にリラックスすることができる。ヨガをやっていると、本当に心と体はひとつのものだと実感する。
朝1時間半ほどやって、また、夕方1時間半ほど行う。この土地は、日本人もたくさん来て長期滞在するので、あるアーシュラムの図書室に行くと日本語の本が山ほどあった。日中は、読書三昧の生活を送った。
夕方になると、ガンジス川のほとりでプージャの儀式(火の儀式)が始まる。プージャの歌を歌いながら、ろうそくの火を灯した小さな草舟を川に流す儀式だ。ちょうど精霊流しのような感じだ。すごく静かな夕暮れに、優しい歌声が響き、川面に流されていく火を見ていた。本当に心が静まるひと時だった。
町は完全菜食で、卵さえもだめだったが、その分野菜料理がヴァリエーション豊かで、まったく肉が欲しいと思わないほど充実しており、全然苦にならなかった。インド滞在中はもとより、その後もしばらくは菜食の生活を続けた。そんなこんなで、インド滞在中は今まで生きてきた中で、これ以上ないほど体調が良かったように思う。嘘のようだが、本当の話だ。
この町には、たくさんの修行者がいた。川沿いに、そまつな小屋をつくって修行している人もいた。ある時など、川面を、座禅を組んだ状態で、身動きひとつせず木の葉のように流れていく修行者を見たことがある。インドは面白い。
この町でも、タブラの音をよく聞いた。タブラはインドの太鼓なのだが、表現のしがたい、うねる心臓の鼓動のような、なんとも原初的なというか、細胞にまで染み渡るような響きがする。youtubeなどで探して聞いてみたが、この手の楽器の響きは、録音したものからは聞くことができない。シタールの音もそうだけど、楽器から出て空気を震わせる音と、スピーカーから聞こえてくる音には、その広がりに天地ほどの差があるように思う。生の響きは、細胞を震わせ、心臓を破裂させるような強烈さがある。
リシュケーシュは、なぜか懐かしさを感じさせる町です。もう一度行ってみたい土地です。

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